Case 導入事例

学校 100~999人 国立大学法人 埼玉大学
研究室目線の棚卸施策を交え、全学一元管理を徹底
国立大学法人 埼玉大学
1949年創立。すべての学部が1キャンパスに集まっている利点を生かし、文系・理系の融合教育研究に力を入れる。
薬品管理用システムは2004年にIASO R4を導入し、IASO R5を経て、2018年よりIASO R7をご利用中。
今回はIASO R7による薬品管理や棚卸推進プロジェクトについて、科学分析支援センターの徳永さん、降矢さん、中島さんにお話を伺いました。
(2024年1月取材)
埼玉大学 科学分析支援センター
https://www.mlsrc.saitama-u.ac.jp/
国立大学法人化をきっかけにシステムを導入
- IASO導入のきっかけと経緯を教えてください。それまでの管理はどうされていましたか。
徳永さん
元々、薬品管理は各研究室に任せていました。記録様式や媒体はまちまちで、大学として一元管理はできていませんでした。
国立大学法人化の際に、当時の科学分析支援センター長が「やはり薬品管理をきちんとしなくては」と考え、これをきっかけに2004年にIASO R4を導入しました。
科学分析支援センター 徳永さん
- 競合システムとの比較検討についてはいかがでしたか。
徳永さん
当校としては廃液処理の依頼伝票をシステム内で作成したいという要件がありました。当時は紙の手書き伝票による管理で労力が掛かっていましたので、せっかく薬品管理システムを導入するならばデジタルデータとして残せる機能を組み込みたかったんです。
このカスタマイズに対応できるということでIASOが選ばれました。使い勝手もIASOが優れていると私は思いました。
- 廃液関係の管理も強化したい意図があったんですね。
該当法規ごとの登録手順など、運用ルールも導入時に決めたのでしょうか。
徳永さん
いえ、初めは「購入した試薬は、研究室に納品されたらIASOに登録してください」というルールのみでした。ところが実際に運用しみてると、なかなか登録されない。やはり慣れない作業ですし、面倒くさいですからね。
そこで、「せめて毒劇物はきっちり登録しなれば…」ということで現在のルールを決めました。
降矢さん
当校の運用ルールとして、毒劇物の納品は専用窓口で受け付けます(後述)。
そこでIASOバーコードを貼り付けて、IASO上は仮想保管庫として用意している保管場所に在庫登録した状態で各研究室へビンをお渡しします。ビンを受け取った研究室は、IASO上で[保管場所変更]操作をして実際の保管庫に移すわけです。
この保管場所変更作業を忘れる場合が多いため、毎月末に移動完了しているかを我々で確認しています。また、保管場所変更の際に新しくIASOバーコードを貼り直してしまうミスも多いですね。
従来は全学向けの説明会を年2回程度対面で開催していましたが、新型コロナ禍以降はオンライン方式に変更しました。アナウンスは年2回(前期・後期)程度ですが、オンライン説明会(動画の視聴)は年間を通して常時可能としています。説明会の受講は任意参加ですが、IASOの利用が想定される方や操作に自信がない方、新任の先生・学生さんはできるだけ参加いただいています。
- IASOの使い方に加えて、廃液や毒劇物登録など独自ルールの説明が必要になりますよね。
管理方法(下図参照)は「重量管理(使用量入力)」式を選択されていますが、これも手間を減らすためでしょうか。
徳永さん
単純に「重量管理(持出/返却)」式にした場合、薬品を持ち出すためにIASOに[持出登録]をして、使い終わったら[返却登録]をする手間が生じますよね。こうなると、面倒くさがって実施率が下がると予想し、一度で済ませられる「重量管理(使用量入力)」式にしたんです。
【管理方法設定と登録タイミングの違い】
管理方法「重量管理(使用量入力)」式は、他の管理方法よりも記録登録処理が1回分少ない。
(多くの場合は薬品を「返却する」タイミングで確定した使用量の記録処理を行う。)
本件のように記録登録の手間を減らすための選択肢となるほか、一斗缶などの電子天秤で計量できない重量物について分取量を記録するといった使い方も可能。
降矢さん
使用量入力の仕様上、よくある間違いとして製品の内容量単位が「kg」であるにも関わらず、使用量を「g」で入力してしまう場合があります。例えば「内容量1kg」の製品を満タンから100g使用した場合。本人はgのつもりで「100」と入力するとIASO上は使用量「100kg」となるため、見掛残量は「-99kg」となりますよね。こちらで集計した際に妙な値が出て気付くことがあります。
- 他のユーザーでも見られる誤入力です。これを防止するため、「異常入力値アラート」機能を追加しました(下図参照)。
降矢さん
それはとても助かります。普段、そのような外れ値が入力される可能性までは把握できないですからね。
総合技術支援センター 降矢さん
【異常入力値アラート】
持出・返却および棚卸の際に、桁数や単位の誤入力を防止するため、計量値が薬品マスタ内容量のn倍上である場合にアラート表示する機能。
アラートはあくまで確認用であり、[OK]とすればそのまま登録可能。
※薬品マスタの内容量と計量入力単位が異なる場合は換算。
- 法規改正の情報は、こちらの部署で監視されているんですか。
徳永さん
当校の場合は、総合技術支援センターという技術職員の組織の中に安全管理のプロジェクトがあり、そこで薬品に限らず安全管理を全般的に考えて運用しています。
安全衛生体制としては全学の安全衛生委員会があり、その下に理工研の安全衛生委員会があります。例えばIASOの更新予定や、運用変更が必要な場合は、大元の対応案はこちらで作って上に上げています。
各研究室に対しては、こちらで察知した情報の認識状況を確認することが多いです。承知されていない場合は、実施内容と時期をお伝えします。
- 最近の法改正として労働安全衛生法の「作業記録等の30年間保存」ありますが、大学として対応プランはありますか。
降矢さん
(労働安全衛生法で指定されている)特別管理物質に関しては、紙媒体での記録を始めていました。1年分の記録をスキャンしてPDFで保管します。
- IASOでも対応機能の実装を予定しています(2024年4月実装済み)。使い方に合ってれば、お役立ていただければと思います。
大学では「学生1」のようなユーザーアカウントを複数人で共用することがありますが、これだと持出・返却記録から個人を特定できません。
新機能は持出・返却記録とは別の「作業記録」として「作業者」や「作業場所」をテキスト入力できます。ユーザー名(ユーザーマスタ)に縛られず、その都度、実際に作業場所にいた個人名を残せるわけです。そのうえで、入力内容は過去10回分程度まで記憶して入力候補として選択肢表示します。「最近の作業記録」と同じ内容はスムーズに入力できるので、ストレスは感じにくいかと思います。
※機能詳細は下記を参照ください。
🔗【新機能】労働安全衛⽣法に基づく作業記録等の30 年間保存に対応 - 化管法のPRTR制度(排出量等の提出)については、さいたま市生活環境保全条例の関係で厳格に管理されているのでしょうか。
徳永さん
そうですね。PRTRは[PRTRリスト]機能を使って、集計値と単位を確認した上で提出しています。
PRTRは排出量と移動量を出す一方で、さいたま市の条例はPRTR対象物質も含めて総使用量だけを提出する決まりです。PRTR対象外でも、さいたま市が条例で独自指定している物質がありましたが、その多くは今回の法改正でPRTRに含まれたり廃止されたりしたことでだいぶ減りました。残りはメタノールくらいじゃないでしょうか。
【地方条例の組み込みについて】
IASOは標準搭載している法規情報のほかに、任意でオプション法規や地方条例を組み込むことができます。
■標準法規(9種):
毒劇物取締法/消防法/労働安全衛生法/化審法/麻薬及び向精神薬取締法/国際規制物質/化管法(PRTR制度)/薬機法/覚醒剤取締法
■オプション法規(4種+地方条例など):
水質汚濁防止法/女性労働基準規則/水銀汚染防止法/土壌汚染対策法/各地方条例など※
※導入実績のある条例:東京都環境確保条例/さいたま市生活環境の保全に関する条例/大阪府生活環境保全条例 など
※上記はオンプレミス版(自学サーバ等へ導入する場合)の仕様です。クラウドサービス版は仕様が異なりますので詳細はお問合せください。
- ほかに欲しい機能や改善要望はありますか。
中島さん
経理システムなど、他のシステムと連動できると助かります。特にクリエイトシンプル※と連動したら助かるという声は学内からもあります。
※CREATE-SIMPLE:厚生労働省開発の化学物質リスクアセスメントツール
- システム連動、特にクリエイトシンプルは要望を多くいただいています。ただ、実際はあくまでリスクの程度を判断するためのもので、それに対して対策を考え実施するのがリスクアセスメントの本質と考えています。「クリエイトシンプルで評価したので安心」という解釈を助長しかねないことから、連動対応は考えていないのが現状です。連動できれば便利なのは間違いないんですけどね。
科学分析支援センター 中島さん
廃棄費用の補助を"ご褒美"に全学的な棚卸実施を達成
- さて、本題と言ってはなんですが、埼玉大学さんで実施された全学的な棚卸推進プロジェクトについてお伺いします。この背景や経緯をお聞かせいただけますか?
降矢さん
背景として、やはり労働安全衛生法の改正がありました。事業者の薬品管理の仕方について、今までの法令準拠型から、「法令で規制されていなくとも、GHS表示対象ならば自立的に管理する」という考え方に変わるわけです。大学は少量・多品種の化学物質を扱いますので、まずは在庫情報をきちんとIASOに反映しなくてはなりません。
大学にありがちな実態として、例えば退職した先生が試薬を残していくことがあります。未開封でも古い薬品が結構あるんです。この際、そういったものをすべて処分してもらうために棚卸計画を推進しました。
ただ、事務局に言われたからといって、すべての研究室が速やかに実行できるものではありません。そこで棚卸の“ご褒美”として、通常は研究室予算で賄う薬品廃棄費用を大学が一部負担する仕組みとその予算を用意しました。
結果として、2022年10月から2023年3月までの6ヶ月間で、対象研究室96個所のうち94個所で棚卸が実施されました。残りの2箇所は薬品をあまり使わない所です。
- 見事なキャンペーンだと思います。研究室としては、それなりの金額が浮くのでしょうか。
徳永さん
当校が廃棄処分をお願いしている業者さんの場合、固体試薬の処分費用の料金単価は残量に依らず「ボトル1本いくら」なんです。そのため、中身をまとめずに個別廃棄すれば本数分の費用が嵩みます。また、水銀等の有害物質は単価も高く、保有数の多い研究室だと数十万円掛かることもあります。
全校からの廃棄を受け付ける事務局としても、廃棄費用の削減は課題でした。最初の見積では想定の2倍近い金額になり、それを予算内に収める必要がありました。まず、「本数」を減らすために水溶性で危険性が比較的低いものなどは研究室側で溶かして液体としてまとめてもらい、通常の実験系廃棄物処理で対応しました。業者さんとは年間契約(通常の実験系廃棄物処理契約)との兼ね合いも踏まえて色々と交渉し、最終的には廃棄費用を予算内に収められました。
- 廃棄費用を補助する施策は、今回限りの予定でしょうか。
再度実施すれば効果が期待できそうですが、費用も掛かりそうですよね。
徳永さん
実は、廃棄費用の補助を掲げた一斉廃棄の試みは初めてではありません。「今回に限り大学が廃棄費用を持つので、廃棄薬品があれば教えてください」という募集を、以前にも3回ほどかけています。結局「今回に限り」ではなかったわけですけどね笑
今回も数年ぶりに使った手段ですが、費用面からそう頻繁にはできませんので、「今回に限り」という前提で案内しています。本来、棚卸は継続的に実施する必要がありますが、基本的には研究室予算でお願いせざるを得ないため、個々の意識頼りになります。
- 効果覿面といえど、繰り返しこの措置を期待されると困ってしまうわけですね。
不要品の廃棄方法は、次回もこの方式を踏襲する予定なのでしょうか。
徳永さん
全学一斉というのはなかなか難しいので、各研究室で棚卸をしたうえで、廃棄薬品が出た場合は科学分析支援センターへ連絡いただき廃棄方法を案内するのが現実的と考えています。
注意点として、ビンを廃棄しても[空ビン登録]をしないとIASO上は在庫が残ってしまいます。廃棄にあたっては空ビン登録も徹底いただくよう通知しました。また、業者さんに引き渡すということはPRTR上の「搬出」に該当します。そのため、システム上に「廃棄」という使用目的マスタを設けて、持出・返却登録からその使用目的を選んで空ビン登録してもらう必要があります。そうすればPRTRリストにも計上されます。
降矢さん
全学的に棚卸をするときのポイントは、実施日が分散するよう管理者側で調整することだと思います。当校は同時ログイン数が20ユーザーまでなので、各々好きなタイミングで棚卸しを…というわけにはいきません。
そこで、棚卸を目的としたログインは研究室ごとの予約制にして1研究室あたり2ユーザーまで使えるルールとしたので、1日あたり5研究室で合計10ユーザー分が棚卸枠として使われました。
IASO導入から約20年ですが、全学でこれほどの棚卸実施率が達成されたのは初めてです。交通整理が大変ではありましたが、棚卸機能を触ってもらうことでの使いやすさ・簡単さは実感してもらえたと思います。
各研究室においてはIASOへの在庫反映と共に不用品を仕分ける機会となりました。IASOに未登録の薬品がある場合は、明らかに不要で廃棄予定の薬品であっても、PRTR集計のため一度IASOに全て登録してもらってから「廃棄」処理してもらいました。また、登録済みのものは棚卸で廃棄登録するなどして、現物・データ共に整理してもらいました。これによりビンの本数自体が減りましたから、次回以降の棚卸作業はもっと軽くなるはずです。今後も定期的に棚卸ができるように我々もお手伝いしたいと思っています。
- 元々、棚卸作業の労力削減はIASOが作られた理由そのものです。面倒なイメージがありますが、一度触ってみると機能としては意外と簡単なのがわかると思います。
廃棄費用負担は頻繁に使える手ではないにせよ、一度棚卸機能を触ってもらうための強い動機付けとして、とても効果がありそうですよね。お話しいただきありがとうございました。
毒劇物検収の一本化(技術センター)
毒劇物納品時の検収とIASOへの仮登録を行う技術センターをご案内いただきました。
検収窓口となるデスク(IASOを使用可能)
降矢さん
毒劇物の納品は、こちらの総合技術支援センターで一括で検収しています。ここを通すことで業者さんに代金が支払われる仕組みです。検収時にIASOバーコードを貼って、薬品登録まで行います。
学科別に用意されたIASOバーコードシール
降矢さん
毒劇物の場合は、伝票を基に内部監査が入ることがあります。「これはIASOで管理されてますか?」という確認に対して、伝票の薬品とIASOバーコードが一致していないとわからないので、登録したIASOバーコード No.も逐一記録し2年間保管していますので、トラブルが起きた場合はいつ納品されたものかを調べられます。毒劇物はコードに「Z」を入れるルールです。これにより、各研究室は「Zがついてると毒劇物」とすぐに判るわけです。
ただ、職員側が受付窓口に付きっきりというのは難しいので、納品時間を決めて業者さんにお伝えしています。基本的には午前10時半から12時、午後3時から4時半まで。その時間からずれる場合は、あらかじめ連絡いただいて対応します。この仕組みで、毒劇物の登録率は100%となっています。
- システム以前に、確実な納品記録と保存の仕組みを確立しているんですね。
ご説明ありがとうございました。
本文に掲載していないものも含め様々なご意見・ご要望をいただき、運用方法の意見交換もいたしました。
化学物質管理体制(リスクアセスメントの判断基準など)の検討については、IASO.infoコラムも合わせてご参考ください。
🔗コラム:化学物質管理者の選任とその役割(前編)/筑波大学 中村教授

- 社名
- 国立大学法人 埼玉大学
- 事業内容
- 国立大学
- 設立
- 1949年5月1日
- 従業員数
- 500名